
「薬を飲めば治るんですよね?」
「どうしたらもっと良くなるんですか?」
「薬っていつまで続けるんですか?」
「飲んでいるのに良くならないのはなぜですか?」
こういった疑問を感じたことはありませんか?
そして、その答えを求めて病院を転々とする飼い主さまに出会うことも、決して少なくありません。
私自身、往診で診察をしている中で
「この治療はどこまで続けるのが正解なんだろう」
と考えさせられることがあります。
そんな経験を通して改めて感じるのは、
薬は “体を治すための道具” であって、 “壊れたり衰えた臓器を完全に元通りにする道具ではない” ということです。
■ 薬と臓器の関係を「タオルの例え」で考えると…
お気に入りのタオルがあるとします。
その端に火🔥(=病気の始まり)がついてしまい、焦げ始めました。
慌てて水をかけたり、消火器🧯で火を消したことで(=薬を使った)
燃え広がらず、一部分が欠けた程度で済みました。
でも──
タオル自体には、欠けた部分を”元通りに戻す力”はありません。
欠けた部分をより良い状態に近づけるためには
- 洗って乾かしたり
- 縫い直したり
- 補強したり
といった「修復」の作業が必要になりますよね。
この修復にあたるのが
「外科手術」や「体自身の修復力(自己治癒力)」 です。
完全に元通りにはならないので、ほつれたら直し、弱いところは補強し(=薬)、
できるだけ長く使えるようケアしていきます。
■ 薬にできること・できないこと
体も同じで、病気になると『薬』はタオルの火を消すように
- 炎症をおさえる
- 細菌やウイルスを排除する
- 痛みや不快感を抑える
- 回復しやすい状態に整える
といった形で働いてくれます。
しかし──
薬そのものには、臓器を“まっさらな状態”に戻す力はありません。
でも、これは
「治療がうまくいっていない」
「薬が効いていない」
という意味ではありません。
それは、生き物にとって“自然な仕組み”なのです。
■ 臓器にも「再生しやすいもの」と「再生しにくいもの」がある
一度ダメージを受けた臓器は、完全に元通りに戻らないことが多い──
これは悲しい話ではなく、生き物の当たり前の性質です。
だからこそ、
“治す” から “守る・維持する” という考え方への切り替え が治療ではとても重要になります。
◎ 再生しやすい臓器(=修復力のあるタオル)
- 皮膚
- 肝臓
- 腸
- 血液
これらは軽い炎症やダメージ程度であれば、
薬で邪魔者(炎症・細菌など)を取り除くだけで、
タオルを洗って乾かすように、どんどん自分で回復していくことが多いです。
◎ 再生しにくい臓器(=焦げたら元に戻りにくいタオル)
- 心臓
- 腎臓
- 脳
- 神経
- 膵臓
これらは「元通り」に戻すことが難しい臓器です。
しかし、だからこそ
- 悪化させない
- 今の機能を守る
- できる限り快適に過ごす
- 寿命いっぱいまで使えるように支える
こういった治療には、とても大きな意味があります。
■ 最後に
“治らない=よくないこと” ではありません。
生き物の体には限界があるからこそ、
どう守り、どう維持し、どんなふうにその子らしく過ごしてもらうか
が治療の大切な目的になっていきます。
また回復する力には自分の力が必要となれば、
・栄養
・環境
・ストレスを減らす
などで体のベースアップをはかることもとても重要です!
飼い主さまが不安を抱えず、納得して治療を続けられるよう、
これからも丁寧な説明とサポートを心がけていきたいと思います。


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